「ばーちゃーん、ガキ身ごもったから匿って」
酒場に響く声に、酒場が一瞬しんと静まった。
「……ヘスティア、何かいったか？ばーちゃん良く聞こえなかったよ」
唖然とした顔でフレイアは言い返した。
「なに、ぼけたのか？ガキ身ごもったから暫く匿ってくれっていったんだよ」
さら～っと言ってマスターからジュースを受け取るヘスティア。
「………因みに旦那は誰だい？」
深い溜め息と共にフレイアが聞き返せば、漸く石化から溶けたように酒場にざわめきが戻る、が、耳はみんなダンボだ。
「ん？いねーよ？」
「あ、やっぱり？」
さくっと答えさくっと流すヘスティアとフレイア。
「…まて、フレイア、流されるな」
大いに焦った満がそんな二人に突っ込む。
「いやだってな？ヘスを娶れるような男ってそうそういないぞ？」
その言葉に頷くヘスティア。
頭を抱える満。
「取り敢えず誰の子供か分かってるのか？」
「おう、種は誰か分かってる」
「……だから種などど……」
さくさくっと話を進める二人に満はぶつぶつと呟く、止めても無駄だとしっているからだ。
「へ～へすちゃん妊娠したの？おめでとう～」
そろそろ大丈夫だろうと、フレイア達と同じ席で酒を飲んでいたレアが話しかけてきた。
「おう～さくさくっと搾り取って孕んできた」
「…ヘスちゃん、…流石にそのひょーげん、だめ」
横にいたラルフィリアが突っ込む。
「あ、わりぃ～」
悪びれもなくにこやかにそう返すヘスティア。
「で、相手は誰だ？」
グラスを傾けつつ平然と問いかけるマナウス。
「ん、竜の兄ちゃんとこの次男」
さら～～～っと言い放ったヘスティアに、流石のマナウスも噴いた。
序でに酒場中の人間がかたまった。
「………リューリャ……何してる…」
頭を抱えるレイア。
「あ、たつにーはなんもしてないぞ？さくっと拉致って監禁して協力して貰っただけだから」
「それ、協力言わない！！！」
にこやかに宣うヘスティアにレアの鋭い突っ込みが炸裂する。
「えー、でも最終的に協力的で、拘束外しても抱いてくれたぜ？」
なんだかとっても怖いことをさらっと言うヘスティアに酒場の中は爆発的に五月蠅くなっていく。
聞こえるのは、やっぱりかとか、や羨ましいとか、ちょっと待て犯罪だろうとか様々。
因みにフレイアは体をくの字にして笑っていたのだが、その台詞に腹筋崩壊。
ついでにパーシも腹筋崩壊らしく珍しく机に突っ伏している。
シルヴィアは頭を抱え、満は凍り付き微動だにせず、レアは乾いた笑みを浮かべていた。
ラルは手を会わせ合掌、レイアはどういって良いのか分からずフリーズ中。
「と、取り敢えず、相手はリューリャで間違いないのね？」
どうにか正気に戻ったらしいレアがヘスティアに訪ねた。
「おう、あの間はたつにー以外相手にしてねぇからな～」
どんと座って、ジュースを煽る。
「………良いのか？それで」
「そうそう、旦那は作らないの？」
もの凄く微妙な顔のマナウスと、レアが訪ねる。
「特にはいらないな～ただ、ガキは欲しかったから…、んで資質と素質と色々考えて、突き詰めたらたつにーになったんで頼んでみた」
「…拉致監禁が？」
それって協力っていったっけ？とレア。
「あ、因みに拉致監禁の首謀者はレイランな？」
「ちょっっっ」
がっくんとマナウスが前に倒れ、レアがずっこける。
「な、何してるのよ鈴麗っっっ」
とうとうレアが頭を抱えた。
「まーうん、色々あるんだよ、レイランにも」
「お前がいうなーーーーーー」
復活したレイアが突っ込む。
「まぁ、あれだ、何もいらねぇ、やらなくて良いから、って約束だからな～ガキに親と名乗るかどうかは向こう次第、俺はぜってぇいねぇからそこんとこよろしく」
にこやかに酒場に響き渡るように宣言するヘスティア。
論外に「言ったら殺す」と言われてる気がしてきた酒場にいた人間。
「…元がどうであれ、こいつは俺のガキ、だからな」
愛おしそうに腹部を撫でるヘスティアに、皆は色んなモノを諦めたらしい。
「あ、因みにガキが出来たかどうかすら、たつにーには言ってないし、みんなにも一切言ってないから」
「…突然連れていって驚かすのか？となると暫くあたしらが育てた方がいいね～」
「お、ばーちゃんよく分かってる～」
「まぁね～、伊達にあんたのバーちゃんしてないよ」
「お・さ・す・が」
「……良いのか其れでフレイア？！」
酒場に満の悲壮な声が響いたそうな。

そして十数年後、赤い髪に黒い瞳の少年が、ヘスの側にいるのが見られたのは気のせい、ったら気のせいだ、と思う竜哉であった。